笑顔で小さく頭を横に振る千歳だったが、その声は思い切り鼻声だ。
「だめだめ。小梅ちゃん。朝から具合悪いって顔に書いてあるから心配してるのに絶対認めようとしないんだぜー。熱測ろうとすれば怒るしさ」
後ろから二人の様子を眺めていた綾人が溜息混じりにやれやれといったふうに両手を開いて言う。
「熱なんかない……ってか出してる余裕ないの。今日もバイトなんだから。それに測るって言ってキス迫ろうとしてただろお前」
眉をしかめて千歳は綾人を睨んだ。
「まあ、綾人さんそんなことを?」
「違うよー。熱あるんじゃないかとちょっとおでことおでこで測ろうとしただけだぜ」
「なんでおでことおでこで測る必要がある? 手で充分だろが……っ」
あきらかに下心見え見えだった行動を否定する綾人に言い返そうとした瞬間、ひやりと額に触れた感触に千歳は言葉を詰まらせた。
「ちーちゃん、おでこ熱いですよ」
小梅の小さな手が額に当てられている。
それに気がついた瞬間、一気に頬が熱くなった。
「ほらほら。やっぱりー。顔も真っ赤じゃないか」
千歳が頬を紅潮させるのを見て、綾人がにやにやとしながら言う。それが熱だけのせいではないとわかっていての台詞。
「黙れ」
短く、威嚇するように返すも、それ以上の言葉は出てこず、俯く。
「今から早退したほうがいいですよ。ちーちゃん」

