屋敷の中央ホールから二階へ続く螺旋階段は小梅のお気に入り。子供の頃友達を招くと、お姫様に憧れる女の子達は皆、目をキラキラさせて羨ましがったものだ。
お気に入りの階段を上り終え、左端にあるクマさんのネームプレートがかかった部屋のドアを開ける。
「あれ?」
ドアを開けた瞬間ひやりとした冷気が頬を撫でて、小梅は小首を傾げた。
ピンク色の大きなフリル付のシーツが掛けられたベッド脇の窓。同じ色でしつらえられたカーテンが微かに揺らいでいる。
「あれれ? マキさん閉め忘れちゃったのかな?」
広い屋敷を管理するのは骨が折れる作業である。よって、藤之宮家では常時お手伝いさんを雇っている。今はマキという名の、まだ二十歳前後のお手伝いさんが一人。
どうやら掃除をする時に開けた窓を閉め忘れて自分の部屋に帰ってしまったらしい。
「ふふ。マキさんのあわてんぼうさん」
くすくすと笑いながら窓際に近寄る。窓を閉めてカーテンに手をかけたところでふと視線を感じて小梅は手を止めた。視線は窓の外から感じる。
小梅の部屋は道路向きに窓がある。見下ろせば芝生を挟んで屋敷を取り囲む背の低い生垣が見える。
その生垣の向こう側に佇む人影を見つけ、小梅は目を凝らした。
「ちー……ちゃん?」

