机に置かれたコーヒーカップの中で琥珀の液体がとぷんと揺れるのを見ながら苦笑する。
「ふふ。パパは本当に研究が大好きですねえ」
「なあに、一番はママと小梅だよ」
留守がちな自分なのに、いつでもふわふわと笑ってくれる小梅。確かに龍馬にとっては一番の宝だ。本当はもっと一緒にいてやりたいのだ。かといって、研究もしたいし、理事の仕事だってそう暇なものでもない。
そのための研究だったのに――
昨夜徹夜する羽目になった事を思い出して、龍馬の顔が曇る。
「パパ?」
「あ。いやあ……何でもない。何でもないよ」
表情に変化に気がついた小梅の心配そうな声に慌てて笑顔を作り直す。
「ちょっと疲れているだけだよ。さあ。明日も学校だ。小梅も早く休みなさい」
「はい」
ふうわりと笑って、小梅は素直に頷く。
「パパも早く寝た方がいいよ。じゃあ、お休みなさい」
「ああ。そうするよ。お休み小梅」
笑顔で手を振る龍馬。
小梅も笑顔でそれに答えて手を振り部屋を後にする。
書斎のドアを静かに閉めて小梅は螺旋状になった階段を上り、自室へ向かった。
曽祖父の時代に建てられた洋館――
随分と古くなり傷んで、補修をせねばならぬところも所々あるとはいえ、それでも立派な造りの屋敷は年を経るごとにそれはそれで味わいを深めている。

