花は踊る 影は笑う~加賀見少年の非凡なる日常~


 日が落ちかけて薄暗くなってきたグランド。
 土慣らしをして帰り支度をしている野球部を横目に、校庭とグランドを仕切るフェンスづたいを鼻歌混じりに校門へと歩いていた綾人だったが、
「あれ?」
 校門が見える位置まで来たところでふと鼻歌を止めた。
「千歳っち?」
 校門の柱によりかかる人影。
 先ほどあっけなく綾人の誘いを断って帰ったはずの千歳がいる。じっと動かず地面の一点をみつめる様子は人を待っているとしかみえない姿だ。
「うん? もしかして気が変わってくれたのかな」
 単純にそう思い嬉しくなった綾人の口元にニイ、と笑みが浮かぶ。毎日の地道なアタックがついに巧をそうしたか、と駆け足で校門へ向かう。
「千歳~っち!」
 走りながら声をかけるが千歳は気が付かないのか、校門に背をあずけたまま、ぼんやりと地面を眺めている。
 まあ千歳のことだ、本当は聞こえているけれど知らないふりをしているのかもしれない……と、思っていた矢先、その千歳が顔を上げた。
 そしてゆっくりと綾人のほうへと振り向く。
 なんだ。本当に気が付いてなかったらしい。足音が近づいてようやく気が付いてくれたようだ。
「なあ、千歳っち。やっぱり行く気に――」
 そこまで言いかけて綾人は息を呑む。
「お……おおおお?」
 振り向いた千歳が綾人に向かって微笑んでいる。
 あの千歳が。
 いつも自分にだけ特に冷たい千歳が……今まで見たこともないような頬笑みを見せて。
「って……あれ?」