綾人の言葉に千歳は頭を傾げる。
「今初めて来たぞ」
「またまた~あ。練習中に体育館裏通ってくの見たんだぜ。裏口開けてたからな」
「いや、通ってないし」
「嘘だ~。俺が愛しの千歳っち間違えるわけ……てっ!!」
綾人の顔が途中で苦痛に歪んだ。運動靴の上に思い切り千歳の踵がめり込んでいる。
「あ~も~。なんだよ。どいつもこいつもっ……今日は厄日かよ。よってたかって気持ち悪いことばっか……」
綾人の台詞がさっきの理事長を思い出させて更に不快感が倍増してしまった。
千歳は怒りのあまり湧き上がった衝動を抑えることができずに、綾人の足の甲をぐりぐりと踵でえぐる。
「いたたたっ。痛いってば千歳っち」
「あ?」
あまりの痛さに本気で泣きがはいった綾人の声にようやく我に返り、ハッとして足をどける。
だけど謝りはしない。自業自得だと思うふしもかなりある。
「あ~……痛かった。千歳っちてばそっちの気もあるの? ほら苛めるのが快感な……」
「まだ踏まれ足りないの?」
またろくでもないことを口走りそうな綾人をギロリと睨むと、綾人は
「いえ。とんでもないです」
よっぽど痛かったのだろうか、素直に辞退してようやく口を閉じた。
くだらないやりとりからやっと解放されて、ほっと息をつきながら千歳はゴミ置き場の扉に手をかける。とっとと捨てて部屋に帰りたい。
勢い良く扉を開く。
だが――
「なん……だ。これっ」

