一応お礼を言いながら理事長の顔を千尋は見上げたが
「……軽い。軽いね加賀見君。ちゃんとご飯食べているのかい?」
続く言葉を飲み込んだ。
「ちょ……なんで頬染めてんですか」
受け止めた身体を離そうとせず、そのまま腕に閉じ込めようとでもいうのか、ぐい、と引寄せようとする理事長は、にへらとした表情で頬を染めている。
「いや~……こうしていると思い出すなあって。僕の初恋だった女の子も体が弱くてよく倒れそうになったものでね。細くて軽くて……ああ、懐かしいなあ……」
「いや、俺。女の子じゃないですし!!」
思い切り腕を突っ張り身体を引き離そうとするも、うっとりとした表情で遠い目をして我関せずと続ける。
「う~ん……なんだか、加賀見君を見ると可愛くて可愛くて仕方ないんだけど、そういえばあの子にどこか似てるんだよね……ねえ、加賀見君?」
「なんです?」
「小梅のお婿さんでもいいけど、僕のお嫁さんになる気はないかい?」
「冗……談っ」
背中を気持ち悪い冷や汗がどっと伝う。思いっきり突き飛ばしてようやくその腕から逃れた千歳は一気に出口まで走り
「冗談は程々にしてくださいっ!!」
理事長に怒鳴りつけると、そのままゴミ袋片手に撤退した。
バタン、と激しい音を立てて閉められたドアに理事長は一瞬肩をすくめたものの、すぐにその唇の両端は緩む。
「……怒ってもやっぱりかわいいよなあ……」
+++
理事長がそんなことを呟いたのを聞いてはいないが、急ぎ足でゴミ捨て場へと向かう千歳はその頃、より強い悪寒に教われて身体を震わせていた。
「うう……風邪ひきかけてんのかな」

