花は踊る 影は笑う~加賀見少年の非凡なる日常~


 今夢から覚めたとばかりに、どこか劇的な言い回しでそう言って立ち上がると、つかつかと千歳の方へ歩み寄り、おもむろに千歳の肩をがしっと掴む。
「……な……なんです?」
 先ほどから様子のおかしい理事長に詰め寄られ、千歳は思わず後ずさりしそうになる。
「あのね。昨日ね。掃除に来た時なかった? 黒い液体の入った試験管!! 確かにデスクに置いてたんだ。他にもデスクの上に置いてたものが幾つかなくなってて……僕はあれを探して昨夜もずっと……」
 後半は、半ば半べそ状態になりながらすがりついてくる理事長の台詞に、千歳は眉をしかめながらもそれが何のことなのかをすぐに思い当たった。
「ああ、あれですか?」
 思い出すだけでも忌々しい。昨日落としたあの試験管のことだ。
 思い出したらふつふつと怒りが込みあげてきて、千歳は細い眉をつりあげて理事長を睨みつけた。
「もう。全く何やってるんですか!? あんな危ないもの作って! うっかり落としたらいきなり燃え上がって……危うく火事になるとこだったんですよ!」
「えええ!? 落とした!?」
「わざとじゃないですよ。だいたいちゃんと片付けとかないから……本の山に埋もれてて雪崩れ落ちて割れちゃったんですよ。他のも一緒に燃えちゃったんじゃないですか? すぐに鎮火してちゃんと処分しときましたけど、何でもあちこち置かないで下さいよ。ただでさえあやしい危なげなモノしか作らないんですから……」