花は踊る 影は笑う~加賀見少年の非凡なる日常~

 
 実質学校に通ったことはない千早ではあるが、元々体に持っている千歳の情報の断片と、あんな風ではあるが頭がいいことは事実な理事長の情報も持っているせいか、一度習ったことは非常にスムーズに自分に取り込んでいる。実際に千歳達が今習っている範囲内に追いつくのもそう遠くはない。寧ろ、成績に関しては軽く千歳を追い抜きそうな勢いだ。
 そして夕方はこうして、千歳を手伝い、学校用務員のバイトを一緒にやっている。
 変に律儀な千早は自らこのバイトに雇うよう理事長に直訴した。
 世話になっていることを気にすることはないと、小梅も母もなだめようとしたが、千早は折れようとせず、自分の意志を押し通した。
「千歳と一緒だよ」
 何故だと訊いた千歳に、そう言って千早は笑った。
「わたしもちゃんと自分でお金をかせいで、早く自分だけで自立出来るようになりたいだけだ。それに……わたしが手伝えば、少しは千歳も楽になるだろう?」
 その言葉には卑屈さや、遠慮のようなものは見えなかった。ただ単に、人に世話にならずに、独り立ちしたいという純粋な願いしか見えない。その気持ちは、千早の言う通り、千歳も同じだ。
 だから、無理をするなと言っても聞かないだろう事もわかる。
 どんなにしっかりしているつもりでも、まだまだ人の保護下にいる。
 ささいなことで揺らいでしまう。
 自分という存在の足元を固めて本当に強くなるのは簡単じゃない。でもいつかは、何があっても揺らがずに強く独りで立てる……そんなふうになりたいと思っている。そんな風にならなきゃ、大切に思っている女の子を幸せにするなんて口にすることは許されないと思っている。