花は踊る 影は笑う~加賀見少年の非凡なる日常~


 千歳の言葉は、爽やかな千早の笑顔で遮られる。その顔を見て、まあ、仕方ないかと千歳は肩をすくめた。気持ちはわかりすぎるほどにわかるから。本当に、変な性分までよく似ている。苦労性は似なくとも良かったろうに。
「じゃ、行くか」
 鍵束を取り出し千歳が呟くと、千早は頷き身構えた。

 ――あれから一ヶ月。

 千早は藤之宮家の屋敷の一室に住んでいる。
 よほど小梅の怒りようが怖かったのだろうか、どんな手を使ったのかは知らないが、理事長は千早にちゃんとした戸籍を用意してそれをいじって千早の名前をそのまま使えるようにした上で、養子縁組をした。これで実質的に千早は実在する人間としてその存在を確かな形で手に入れた。
 小梅の母親にも今回の理事長の不始末は勿論伝わることになり、相当厳しく絞られたらしい。その上で千早に不自由しない環境を与えることを約束させられたという。
 さすがに小梅の母親であり、あの変人の妻もこなす人物。優しく、理解も深い。
 娘と妻、そしてお手伝いのマキも勿論小梅達の味方であるからにして、理事長が千早に何か妙な真似をすることも勿論不可能。無事に日々を送っている。そして、来年には学校にも転入という形で入ることも決まっている。その日にむけて、昼間は家庭教師つきで猛勉強中だ。