花は踊る 影は笑う~加賀見少年の非凡なる日常~


 先に食事を終えた綾人が放課後までの暇つぶしにと、教室の机に常に隠してある漫画本を千早に持ってきて、その面白さをひとしきり熱く説明して……千早は綾人のその熱弁ぶりに苦笑しながらも素直にそれを受け取った。
 昼休みも終りに近づき、放課後に集合と再度確認して学校に戻る三人を、漫画本片手に千早が見送る。笑顔で、小さく手を振りながら。
 大丈夫なのだと、思っていた――
 なのに。
「いったいどこに行ってしまったんでしょう」
 夕刻、部活に行った綾人を除く二人、千歳と小梅がプレハブに戻ると、千早の姿が消えていた。
 部屋の中は綺麗に片付けられ、テーブルには綾人が置いていった漫画本と理事長の魔術書がきちんと重ねて置いてあり……けれど、その前に座っているはずだった人影は見当たらない。
「あいつ……」
 がらんとした、寒々とすら感じる部屋を見ながら、千歳は唇を噛んだ。
 終り次第戻ると言っていたのだ。そして皆で理事長のところへいく計画だったのに。当の本人がいなくては話にならない。千早だってそれに同意したし、それくらいはわかっているだろうに。
「散歩にでも行ってるのかな」
 小梅が首を傾げながら言う。
「んー……」