花は踊る 影は笑う~加賀見少年の非凡なる日常~


 待っている間、周囲の混乱を避けるために出来るだけ出歩かない方がいいと、そう千早に言って朝出掛けたのはいいが、本当にこの部屋には何も無いのだということを忘れていた。唯一、昨日研究所から持ち出した理事長の魔術書。確かにこれくらいしか見るようなものもない。
「あ、そうでした」
 いつものごとく、手際良く弁当を広げていた小梅がふと、声を上げた。
「マキさんに朝聞いたんでした。パパの予定。講演先の関係施設の視察とか、色々終わらせて、向こうを午後三時には出る予定だって言ってました。ここから電車で四時間ほどのところなので十九時くらいには戻ってくるはずだって」
「ん~。でも龍馬さんどうせまっすぐは帰らないだろ?」
「そうですね。いつも出張から帰っても一度は学校に……というか、研究室に寄って帰りますから」
「んじゃ、そのくらいに研究室で待ち伏せすっか? 千歳っち、鍵持ってるんだよな」
「ああ」
 入って待ち伏せするつもりなのか、と考えてドアのトラップのことを思い出したが、そういえば昨日の昼間に千早と行った時にブレーカーは落としたままだから入るのには問題ないはずだ。
「じゃあ、学校終わって一度またここに集まって、皆で行きましょう」
「了解。部活早めに終わらせてくる」
 綾人が即座に同意を示す。
「小梅は大丈夫なのか? また少し遅くなっちまうぞ」
「大丈夫、ちーちゃん。パパに会うんですから……それに、小梅がいたほうがパパから色々聞き出しやすいかもだし」
 何だろう。笑ってはいるが、いつもの柔らかさではなく、どこか尖ったような笑顔。小梅の背後に黒いオーラのようなものが見えるのは気のせいだろうか。そんなことを考える千歳をよそに、段取りは決定したようだ。