花は踊る 影は笑う~加賀見少年の非凡なる日常~


 後ろから茶々を入れる綾人にすかさず肘を喰らわせる。痛いとうめく綾人の声を聞きながら、この調子だと独り頷く。
 そうだ、これがあるべき日常。
 小梅がいて、綾人が少し鬱陶しくて……他愛のないやりとりを繰り返して。これが今までの千歳の日常で、そんな平凡でごく小さな世界の中にいる自分こそが加賀見千歳で、それは急激に変わったり無くなったりしてしまうものではないはずだ。そこに誰かが加わったからといって小梅が小梅じゃなくなるわけでもなければ綾人が綾人でなくなるわけでもない。その誰かが誰だろうと、千歳が千歳じゃなくなるわけでもない。
 たとえ千早が何処の誰であっても……何かであっても――
「千早っち、やっほ~」
 綾人の呑気な声と共に部屋に入ると、テーブルに向かって視線を落としていた千早が顔を上げた。
「ん?」
 テーブルの上には本が広げてある。
「……読めるのか? それ」
 見覚えのある本を指差して千歳が訊ねると、千早は軽く首を振った。
「いや、読めない。でも……不思議な絵とかマークとか載ってて、見てるとそれなりに面白いよ。ここ、他には何も無いしね」
「ああ……そういや。そうだよな。退屈だよな」