花は踊る 影は笑う~加賀見少年の非凡なる日常~


 軽く、溜息を吐きながら教室に入ると、
「おはよ~っ千歳っち」
 窓際で級友と談話していた綾人が目ざとく気がつき、千歳の方へ駆け寄ってきた。
「どーしたの千歳っち? なんかまた目にクマ出来てない? んん~? もしかして昨夜千早っちと何か……」
 言いかける口を慌てて塞ぐ。
「ばっ……なんもねーよ。ってかでかい声で余計なこと言うな!」
「ふが……わわ……ごめ……」
 小声で怒鳴られ、綾人はハッとしたように一度目をぱちくりさせて謝った。女の子だったらそんな表情も愛嬌があってかわいかろうが、図体のでかい綾人がやっても少しもかわいくは見えない。
「それより、どうだったんだ? なんかめぼしい話とか聞いた?」
 綾人の口を塞いでいた手を離してこめかみを押さえながら机に向かい、椅子を大きくひいて腰を降ろす。前の机の椅子を拝借して、机を挟んで千歳と向かい合うようにして綾人も座り、千歳に顔を近づけて、
「駄目。メールほとんど返って来たけど、それらしい情報なし。全滅」
 小声でそう言うと、机の上に両肘ついて、顔の前で小さく指をバツの形にして見せた。
「そっか……となると、やっぱ理事長か……」