「使い方、覚えたよな。リダイヤルで綾人の番号出るようにしてるから、なんかあったらそれにかけろよ」
「わかった」
頷く千早の手には携帯がある。高校入学祝いと、心配だからという理由で千歳に伯父が持たせてくれたプリカ式の携帯電話。普段ほとんど使わないから通話残量に問題は無い。
「昼はまた小梅が千早の分も弁当持ってくるって言ってたから、こっちに戻る」
「うん」
携帯をテーブルに置き、短く答えた後、再び食べかけだった朝食にとりかかる千早をドアの前で一度振り返り確認して、それから引き戸を閉めて千歳は玄関へ向かった。
ドアを開けると差し込む光がやたらまぶしい。
なかなか寝付けなかったため今日も寝不足だ。起きた時には千早はもう着替えも済ませていてお湯を沸かしていた。元々知っていたのか、千歳がしているのを見てか、もしくは昨日小梅と料理した時に覚えたのか……ガスの使い方は知っているようだ。
挨拶をすれば普通に挨拶が返ってきて、浴室で顔を洗った千歳が戻るとコーヒーが入れてあった。
『あいつ、ちゃんと寝たのかな?』
木立の中を校舎の方へと歩きながらふと、思う。昨夜は何か、様子がおかしいような気がして、それが気になって眠れなかった。千早はあれから一言も発しなかったが、かといって千歳が覚えている範囲内で寝息らしきものを聞いてはいない。
ずっと起きていたのか。それとも千歳の後に眠ったのか。
どちらにせよ、千歳よりも早く起きていた千早の顔に疲れや寝不足といった気配は見えず、態度もこれといって不審な様子もなかった。昨夜、おかしいと感じたのはただの千歳の取り越し苦労だったのだろうかと思うほどに、穏やかで淡々とした様子で千歳と会話を交わし、朝食を作るのを手伝っていた。今日は学校に行くと言っても、別段不安そうな様子も見せず、自分のことは気にせずとも大丈夫だと答えた。
『どうしたものかな』
似ていると感じるのに、自分に近く感じるのに、掴めない。時々どう応対すればいいかわからなくなる。

