花は踊る 影は笑う~加賀見少年の非凡なる日常~


 いつも以上に長くなった入浴を終えてようやく部屋に戻ると、千歳がひいたマットの寝床にぺたりと座り込んで窓の方をぼんやり眺めている千早の姿があった。
「あ、おかえり。ありがとう千歳」
 千歳が戻って来たのに気が付いた千早が、マットをポンポンと叩きながら礼を言う。
「別に……マットも毛布も持ってきたのは綾人だしな」
「そうじゃなくて……ここに泊めてくれて助かった」
「ん……まあ、仕方ないしな」
 タオルで頭を拭きながら千早の後ろを通り過ぎ、先ほど物置から持ち出した袋の方へ向かい、枕を取り出す。軽く何度か叩いてから千早の前に戻ってそれを手渡した。
「ちょっとかび臭いかもだけど」
「大丈夫」
 受け取った枕を両腕で抱きしめながら鼻を寄せた千早は、そのままの姿勢で枕に頬を乗せて嬉しそうに笑みを溢した。
「……先に寝ててよかったのに」
 自分もベッドに腰を下ろしながら千早を見下ろすと、
「あまり、眠くないんだ」
 そう言って、そのまま千早は枕に顔をうずめてしまった。
「そうか? 悪いけど、俺は結構眠い。電気消してもいい?」