花は踊る 影は笑う~加賀見少年の非凡なる日常~


 言われてみれば部屋の隅に見覚えのあるバッグが置いてあった。小梅が買い物から戻って来たときに一緒にさげていたバッグだ。買い物に行ってくると行った時点で、千早が今夜ここに泊まることが決定していたから気をきかせてくれたらしい。さすが小梅だと感心して見ている千歳の前で早速千早はバッグの中から着替えを取り出すと、それを小脇に抱えてシャワー室へと向かった。
 残った千歳は、まずは流し台に残っていた洗い物を片付けることにした。それが終わってからテーブルを部屋の隅に寄せて、出来た空間に綾人の持ってきたマットをひいてシーツを掛ける。毛布は畳んだままその上に置いて……そこで何か足りないと首を傾げる。
「あ、枕」
 そうだ、枕がない。何か替わりになるものはなかったかと、懐中電灯片手に部屋の奥にある裏口のドアから一旦外に出た。プレハブの裏口を出てすぐ脇に小さな物置があって、普段使わないものや、千歳がここに来る以前に置いてあった不要なものはそこにしまいこんである。
 雨風にうたれ少し錆びついた、たてつけの悪い引き戸を半ば強引に開けて懐中電灯の灯りを頼りに中を探る。
「確か……前の人が置いてったのが……」
 適当に放り込んである荷物は奥のほうは崩れていたりで何が何処にあるかなんて覚えていない。雑然とした物置の中は暗く見えにくいので手前の荷物を少し外に引っ張り出して、空いたスペースに上半身を乗り出し手探りしながらライトの位置をずらしていくと、一番奥の方にビニール袋に入った布地の物体が見えた。手の平を当てると適度な反発が返って来る。