「お待たせ千歳っち~。ほら、これ。いいだろ?」
千早と一緒にやってくる綾人の肩には丸められた体育マット。なるほど、確かにベッド替わりに丁度いい。テーブルをどければあれをひくスペースくらいは出来る。
「……いいけど、どっから持って来たんだ」
「え? どっからって勿論体育倉庫。大丈夫って腐るほどあるんだから一個ぐらい拝借しても問題ないって。シーツと毛布はあとで俺が家から持ってきてやるから」
能天気にそう言って綾人はケラケラと笑う。常々思うが、無意味にやたら前向きなその性格が時々うらやましい。自分もあれぐらい何でも楽観的に考えられたらもっと色々楽な気がするのだが……まあ、細かいことまで真面目に考え込んでしまうのは持って生まれた性格だから仕方ない。
綾人はマットを部屋の中まで運び込むと、部活に行ってくると、学校へと引き返していった。
それからそうたたないうちに買い物袋とバッグを下げた小梅が戻ってきて、早速パスタ作りを始めた。なんでもホワイトソースから作ってくれるらしい。
エプロン姿でキッチンに立って料理をする小梅の後姿を眺め、ひそかに、まだ自分の中の夢でしかない遠い未来を思い描いて千歳は幸せを満喫する。
真剣にフライパンを握ってへらでソースを混ぜる小梅の横には千早が並んで立ち、小梅の仕草を興味深げに覗きこんでいる。その姿は、友達に料理を習っているごくごく普通のそのへんの女の子と言った様子で……ここ二日程の非現実的な騒動の元凶にはとても見えない。

