花は踊る 影は笑う~加賀見少年の非凡なる日常~


 そう言い残すと、今度は小梅まで慌しく走っていってしまった。
「え……小梅? ちょっ……」
 買出しを手伝おうと思っていたのに、それを言う暇さえ与えずに……。
 ぽかんと小梅の後姿を見送る千歳の後ろで、ふ、と息が漏れる音が聞こえる。振り返ると、千歳のシャツの裾から手を離した千早が、静かに微笑を浮かべて同じく小梅を見送っていた。そしてぽつりと
「みんな……優しいな」
 視線を動かすことなくそう言った。
「うん。まあ、小梅は当然として、綾人も悪い奴じゃあない」
「なら……もう少し優しくしてあげればいいじゃないか」
「馬鹿。そんなことしたら手におえなくなる」
 とんでもないこと言うなと思わず目を丸くした千歳に千早が視線を上げてニイ、と笑う。
「冗談だ」
「へ?」
「ふふ……っ。千歳。変な顔」
「って……ええっ? もしかしてからかったのか?」
 まさか、千早がそんなことするとは思ってもいなかったので、完全に虚をつかれた。
「あ、あれ。綾人じゃないか?」
 小梅が消えた木立の向こうから入れ替わるようにやってきた長身の人影を見つけた千早が駆け足で出迎えにいく。残された千歳は頭を掻きながら、参ったなと小さく呟いて苦笑した。冗談を言うというのは、心に余裕があるから出来る行為だと思う。もしかすると、千早は本当に……ゴーレムかもしれなくても何もわからないよりずっといいと、そう思っているのかも知れない。だったら、妙な気を回して勝手に怒っていた自分はただの間抜けだ。
「そうだよな……別人だもんな」
 あんまりにも自分に似ているから、何もかもわかったつもりになっていただけで、やっぱり千早は自分とは別の思考を持った別人なのだ。