花は踊る 影は笑う~加賀見少年の非凡なる日常~


「えと、それなんだけど……やっぱりわたしは……ここがいい」
 小梅が迎えに来て、さあ行こうかという段階になって、何故か千早がそんなことを言い出した。
「どしたの千早っち」
 部活前に千歳と千早の顔見にがてら小梅に付き合ってついてきていた綾人が首を傾げる。
「もしかしたら遠慮してるのですか? 大丈夫ですよ、千早さん」
 小梅が促すも、
「いや……そういうわけじゃ、ないけど……駄目か? 千歳」
 千歳の背中に隠れるようにして千歳のシャツの裾を握って離さない。
「駄目かって言われても……や……かまわないけどさ、ベッドは一つしかないわけで、俺も今夜はゆっくり寝たいとだな……」
「わたしは床でもかまわない」
 どうやら決めてしまったようだ。意地でもここがいいらしい。
「えらく懐かれたねえ~千歳っち」
 綾人がにひひと笑う。千歳が睨もうとすると、ふと何かを思い出したように手を叩き
「そうだそうだ。さすがに一緒に寝るのは色々まずいよな~……いいもんあるよ。ベッドがわりに。ちょっと待ってな」
 そう言ってくるりと踵を返してどこかに向かって走り出した。
「え? おい。綾人~?」
 千歳が呼び止めようとするも既にその後ろ姿は遠く、聞こえなかったのかそのまま振り返ることなく行ってしまった。
「ごめん。小梅」
「ううん」
 小声で謝る千早に小梅は気にするなと手を振ってみせる。