花は踊る 影は笑う~加賀見少年の非凡なる日常~


 専門書みたいなものが多いからどれもそれなりに高価なものだろうに。大切に使っているようにはとても見えない。
 これだから金持ちは……。
 面倒見てもらっているのだから贅沢はしてはいけないと、子供なりに意識して、教科書一冊ですらも大事に使ってきた千歳から見ると、そんな風景もカチンときてしまう。
 ずぶ濡れの服が身体に張り付く感触が気持ち悪い。
 苛々したところでそれをぶつけるべき相手はいないし、物に当たれば結局は自分がその後始末をせねばならないのだ。
 ぐっと耐えて、とりあえず何か拭く物はないかと周りを見回す。
 デスクが追いやられた壁際の出窓。
 そとに突き出たその狭いスペースに置かれた藤籠が目に入る……確かあれにタオル類が入っていたはずだ。
 実験中に汚れることも多いからタオルは常備してある。
「よっ、と……」
 出窓の前にデスクがあるのが邪魔だ。
 目一杯その上に身体を乗り出して藤籠へ手を伸ばす。
 片手をデスクについて身体を支えながらもう片方の手を伸ばし、藤籠からタオルを取り出して身を引こうとしたはずみに少しバランスを崩した。
 タオルを持っていた方の肘がデスクに積まれた本に当たり、本の山が崩れる。
 慌てて落下を防ごうと手を伸ばす。