花は踊る 影は笑う~加賀見少年の非凡なる日常~


 ショックと、追い討ちをかけるような綾人の行動に耐え切れなくなったか――
 泣いた。そう、思った。
 おろおろと千歳が見守る中、小刻みに震える手が顔から外され、綾人の腕にかかる。
「ごめん、綾人。ちょっと、苦しい……」
 そんな台詞と共に現れた千早の顔は、笑っていた。
「ありゃ、ごめんっ」
 慌てて綾人が両腕を解き、後ろへ下がる。
 解放された千早は、自由になってもまだクスクスと笑っている。
 この千早の様子をどう判断したものか……めいめいに思い巡らす三人が見つめる中、しばらく笑っていた千早がふと静かになった。震えていた肩の動きがぴたりと止まる。
「そっか……ゴーレムか……」
 呟くような声が漏れて、直後勢いよく顔を上げる。
「ありがとう、小梅。なんか、すっきりした」
 まっすぐに、正面にいた小梅に向けられた千早の顔は、言葉どおり晴れやかなものだった。
「千早さん?」
 小梅が戸惑うのも無理はない。千早の反応は千歳にも予想できなかったものだ。