花は踊る 影は笑う~加賀見少年の非凡なる日常~


 戸惑いがちに千早の顔を見上げた小梅は、じっと自分を見つめる大きな黒目がちな瞳の真剣さを見て、あきらめたように小さく息を吐いた。千早は自分の背中にある痣の事を知っている。小梅が気が付いて見せてしまったから。そして、このページにも同じ文字がある。ここまで来て誤魔化しはきかないだろう。
「……ゴーレムの、作り方です」
「ゴーレム?」
 静かに開かれた小梅の唇から出た言葉に皆が眉をひそめた。
「ゴーレムってえと、あれか? ロープレとかに出てくるごつごつの岩みたいな怪物とか……あんなんだよな?」
「一般的には泥や土で作られた人形を魔術で動かせるようにしたものとなってますね。でも、材料はそれ以外もあるようですし、見た目や能力なんかも様々なケースが載っていて、一言で岩の怪物といってしまうようなものでもないようです」
 思い出したように言い出した綾人の台詞を小梅はやんわりと否定して本のページに視線を走らせる。書いてあることを読もうと試みているらしい。
「これに書いてあるのは……ちょっとパソコンで見たのとは違うようです。水辺に咲く花の雄株と雌株を風でよく乾かしたものを粉状にして人体の一部、もしくは体液等と混ぜ合わせたもの。それとエメトとヘブライ語で……血文字で記した紙を、花が咲いていた場所の水と特定の薬品で煮詰める。それを燃やして、その煤を人型に形作った粘土の人形に振り掛けると人形に命が宿る。ゴーレムは大気中の成分や自然のものを吸収して成長するので最初は小さくてもかまわない。作った術者の体の一部や体液などを使用してあるので術者の念がこもっており、その成長具合や造形はある程度術者の持っている情報や念に影響される。生まれたゴーレムの体にはエメトの文字がどこかに記されていて……」