花は踊る 影は笑う~加賀見少年の非凡なる日常~


「あのさ」
 意を決して千歳は立ち上がると、ベッドから研究所から持ち出した本を取って来た。そしてしおりの部分を広げてテーブルの上に置く。
「小梅、これ意味わかる?」
 千歳がさっき千早が指した単語の部分を指差して訊ねると、千早の表情が固くなる。小梅は千歳の指先にある文字を見ると「あ」と小さく声をあげた。
「そうです。それ……小梅、調べてきたんです。千早さんちーちゃんにも言ったのですね?」
「ああ、千歳にも見せた」
 幾分強張った表情で、けれど千早は小梅の問いにはちゃんと返事を返した。
「図書室のパソコンで調べてみたら、それ、ヘブライ語でした。エメト……真理、神の真実の意とかいう意味があるそうです。で、この言葉を検索にかけるといろいろでてきたんですが……」
 そこで一旦言葉をきり、小梅は開かれた本のページに視線を落とす。
「…………これ、魔術書ですよね。なら、やっぱり……」
 語尾になるにつれ小さくなる声。何かを話すのを躊躇うような。
 いつになくおかしな様子に、千歳も綾人も先を促せずにじっと小梅を見つめる。
「小梅、言って」
 場に訪れた沈黙を破ったのは千早だった。
「わたし……知りたい。小梅がパソコンで見た事とここに書いてあることも同じなんだろう? ここに書いてあることは多分わたしに関係ある。だから……教えて欲しい。ここには何が書いてあるんだ?」