花は踊る 影は笑う~加賀見少年の非凡なる日常~


 想像以上の綾人の捜査報告に千歳も小梅も頷く。元々ここまで調べてくれるとは思っていなかったし、校内や近辺での情報は期待していなかったが……市内全域でも情報が見つかっていないとすると、千早はいきなり記憶を無くした状況で遠方から来たとでもいうのだろうか。
 そうとはとても考えにくい。記憶のない、意識の朦朧とした人間が交通機関を利用せずに自力で長距離を移動してこれるとも思えないし、誰かが連れてきたにしても、たまたまそっくりの千歳がいるこの学園の……それもゴミ捨て場なんかに意識のない人間を運んで来たなんて想像もつかないし、そもそも連れ去りなんかだとすれば事件になっているだろう。
 千歳はこの町で生まれ育って、亡くなった両親も同じく。顔を知っている親戚だって市内在住だ。遠方に知り合いなんていない。幼い頃会ったきりで顔を知らない遠縁の親戚が何かのきっかけで千歳のことを知って訪ねて来たということもあるかもしれないが、それなら、何故記憶の無い状態でゴミ捨て場にいたのか。
 どう考えても、やはり千早の出現は不自然極まりなく、現実的な話と理解するには理由も説明も結びつかないのだ。

 説明のつかない、不可思議な現象。
 常識では理解しようのない存在。

 どうせそうとしか思えないのなら、別視点で考えたもうひとつの答えのほうがやはりもっとつじつまも納得もいってしまうのだ。最も、それは千早にとっては望まない答えなのだろうけど――