花は踊る 影は笑う~加賀見少年の非凡なる日常~


 小梅が考え事をしている間に千早は着替えを終えていた。小梅のほうへと向き直り、小首を傾げる千早。その姿を見た途端、小梅の瞳がきらきらと輝く。
「……やっぱり。似合う。似合います千早さん。すっごくかわいいです」

   +++

「うおおおおおおおおおおお~」
 野太い男の、雄たけびなのか歓喜の声なのか判別つけがたい嬌声。それと間髪おかずに、ゴス、と鈍い打撃音が響く。
「かわいい! かわいいぜ千歳っち~。絶対こういうの似あうと思ってたんだよおおおおおおお」
「黙れ五月蝿い。それに千歳は俺で、アレは別人だ」
 痛烈に頭を殴打されたにも関わらず興奮状態でわめく綾人を冷たい目で眺めながら千歳は顔をしかめる。
 部屋から締め出されてしばらくして始業開始のチャイムが鳴り終わる頃、ようやく小梅に部屋に入れてもらえた。学校が始まるからいけというのに、綾人は徹底的に居残ることを言い張り、千歳と共に部屋についてきた。そしてこの騒ぎよう。
「ああ。そういえばっ。千早っちだった……って見た目は千歳っちと変わんないんだから千歳っちも似あうって事に違いはないっしょー」
 鼻の下を伸ばしてとはよく言ったものだ。本当に伸びている。緩みきっただらしない顔でうっとりと千早に見入る綾人の視線を直に浴びているわけではないが、そんな視線に晒されるのが自分だと思うと気持ち悪いの一言に尽きる。
「いい加減……じろじろ見るのやめろ」
 言いながら千歳は千早の前に回りこみ綾人を睨みつける。
「千歳っち……おこっちゃ、いやん」