花は踊る 影は笑う~加賀見少年の非凡なる日常~


 千早の腰より少し上の右側、皮膚が変色して記号のような形に見える。やや歪に曲がりくねったそれはよく見れば文字に見えなくも無い。
「千早さん、これ、なんですか?」
「…………? いや、ぼ……わたしも知らない」
 ポケットから取り出した手鏡で写してみせながら尋ねる小梅に促され、振り返りそれを見た千早も不思議そうに首を傾げる。
「そうですか。千早さんも知らないのですか……う~ん」
 ただの痣のようなものかもしれない。なのに、何故かそれは妙に小梅にひっかかった。どこかで見たような……そう、規視感のようなもの。
「小梅?」
 呼ばれてドキリとする。見上げると千早と目が合った。
「あ、ううん。なんでもないよ。ゴメンね。もういいよ」
 律儀なことに、千早が小梅に止められたままの姿勢から動かずにいたことに気が付き、あわてて顔の前で両手を小さく振った。顔もそうなのだが、声も千歳とそっくりで、あまりに自分を呼ぶ声が似ていたため、一瞬千歳に呼ばれたかと思ってしまった。つられて、返す言葉も千歳に話すときのように崩れてしまう。
「それで、いいよ」
 不意に、千早がそんなことを呟いてクスリ笑った。
「え?」
「そっちのほうが、いい。……です、とかじゃなくて」
 話し方の事を言っているのだとすぐにわかった。
「あ、うん」
 てへへ、と笑顔で返す。