先生の神経は細やかに見えた。

講義中…

中国からの留学生の女の子のペンが転がった。

それは教壇の近くまで転がってそして止まった。

「あっ…、」

隣りに座っていた僕にかすかにその子の声は聞こえた。

彼女は戸惑っていた。

先生は熱心に講義をしていて、

皆は先生の言葉を必死にノートに書いていた。

彼女はどうすべきか戸惑っていた。


「しまったって、思いましたね。」


すかさず先生はにこやかに彼女を見た。

いたずらに微笑む感じで

軽く両方の手のひらを彼女へ向けた。


「いいですよ、僕がとります。」


先生はユーモアをもって、それを彼女に渡した。

そして、先生はクリクリした目でまた講義に戻った。



些細な親切でも、僕には先生が輝いて見えた。

先生がいない今でも鮮明に覚えている。

『しまったって、思いましたね。』

その言葉…。




先生は見えないモノを言葉にすることがうまかった。




だから先生は飛びたいと思ったのかもしれない。



だから先生は僕を変えられたのかもしれない。