「はー君、凄いね。学校の進路室で全国模試の結果見たよー」

「え、ええぇええっ?!」


突然、ふわりと清潔そうなシャンプーの香りと柔軟剤の香りが香って——且つ環ちゃんが目の前にやって来たもんだから素っ頓狂な声を出してしまった。


…うぅむ、スマートな男でいたいよ俺は。環ちゃんの前だけでは格好良くいたい、


「ははっ、そんなに驚くことないじゃないよはー君。私ってお化け?」

「だだ、だったら是非夢枕に立って環ちゃん!!」

「えぇー?はー君の家、敷居が高いから嫌だよ」


環ちゃんは笑うと目が細くなって、頬がほんのりピンク色になって可愛い。そこが彼女のチャームポイントだとこの10年越しぐらい究めた結果だ。



「環ちゃんに褒められると照れるな…。あ、あはははっ」

(やばいよ加賀美!!俺はこれだけで一週間は生きられる!)

「そんなそんな、私にそんな効力あるとは到底思えないよ。それより、秋水書道展理事会賞、おめでとう。やっぱりはー君の字は凄いね」

「…た、偶々だよ環ちゃん。環ちゃんだって学校で出したんだろう?秋水書道展」



半紙の作品だったけど、凄く繊細だった。——だけれど何処か憂いが帯びられているのにも気がついた。

字が、哀しんでいる。そんな表現が相応しい。


だけど、本人の前ではそんなことは言わないし言えない。



「——うん、出したけど。全然良くなかったね」



一瞬。そう一瞬だけ、その真っ黒の瞳が影を含んだのを見た。



(嫌悪、憎悪、——何の形でも良い)




君が俺を見ていてくれるなら、記憶に残していてくれるなら、俺はそれ以上は望まない。


ただ、俺のことを、俺の存在があったことだけは忘れないで欲しい。


繋がりを失いたくないんだ。