君死にたもうことなかれ

呼吸が荒くなり、殴り続けた腕にも疲れが見え始めた頃。

「非道と思うならば…思え…」

俺に組み敷かれたまま、少佐は言う。

「だが、この戦争は勝たねばならんのだ。どんな尊い犠牲を払ってでも、この戦争は負ける訳にはいかない。全人類の命運がかかっているんだぞ…!…刹那三等兵、貴様には兵士としての自覚が…」

「だまれぇえぇぇぇっ!」

少佐の発言を遮るように、また拳を叩きつける。

尊い犠牲の果てに…まだ15歳の少女が脳と脊髄だけの姿になって生かされている!

死ぬ事も許されず、生きる事すら止められて、惨たらしい姿で兵器として存続させられている!

以前、少佐が言っていた言葉を思い出す。

『九条の死は決して無駄ではない』

その言葉の真の意味を理解する。

『無駄ではない』という本当の意味。

その意味を反芻し、憤り、吐き気にも似た憎悪を燃やし。

「そんな犠牲の必要な人類の命運なんて、捨ててしまえばいい!!」

俺は尚も少佐に鉄槌を振り下ろし続けた。