君死にたもうことなかれ

傷は決して浅いものではない。

放っておけば出血は止まらず、確実に致死量に至るだろう。

それでも。

「!」

残る力で、ドルフ大尉は俺を突き放す。

「何をしている…早く格納庫に行け…今ならまだ…早乙女の強奪行為を…止められる…」

「……」

この人はいつでもそうだった。

仲裁役、制止役。

損な役回りばかりを進んで買って出る。

誰も誉めてくれない。

誰も評価してくれない。

そんな地味で甲斐のない役目ばかりを、黙々とこなす。

こんな死に瀕した時でさえ。

ならば。

「……」

俺は無言で立ち上がり、振り返らないまま走り出す。

ドルフ大尉の遺志を無駄にしない為には、死に行く彼をこの場に置き去りにする事こそが、最善だと思ったのだ。