病棟ではない建物にアザムを連れて向かうベリル。

「あ! ベリルー」

 建物に入ると、既にエントランスでそわそわしながら待っていたであろう、一人の白衣姿の青年。
 
 鈍い金髪を後ろで束ね、メタルフレームの眼鏡から覗く青い瞳は、ベリルを見た瞬間、嬉しそうに手を振り走り寄ってきた。
 
 そんな青年に少し眉をひそめるベリル。

「そろそろ準備は終わりそうか?」

 そう質問をすると、その青年は小さく笑いながら答える。

「もうちょとだと思うよ」

 二人は会話を続けながら建物の奥に進んでゆく。
 アザムはとりあえず、その二人の後ろを小走りで付いて行く。

「本当に観察していいの?」

 青年は子どものような輝く瞳でベリルに問う。

「観察は好きにしたらかまわん。だが――」
「今回のデータは何一つ残さないから安心して」

 アザムは、そんな2人のやりとりの意味が解らなかった。