「好きな音楽ってなんなん?」 という台詞を頭の中で繰り返す。ニュアンスとか、語尾とかに気をつけて、悪印象を与えないような言い方を思考錯誤していく作業はそのまま言い出す勇気にも繋がっていく気がする。いや、そうにちがいない。何ごとも準備を怠ったらあかん。いつでも最悪な状況に陥った時のことも考えとかな、ほんまに自分にそういうことが起こった場合対処できひんようになってしまう。だから事前準備は絶対に怠ったあかんのや。
しかし勇気を出す裏付けとして始めたこの行為がいつも後一歩のところで逆に自信を奪ってしまうのだ。
こうして一人で放課後の教室に残り、この脳内特訓を始めてから早や一週間。そして、この田舎の街に彼女が引越して来てからもう一週間。季節はうっとしかった梅雨が終わりかけ、これまたうっとしい夏がすぐそこまで顔を出していた。