ケインが車を車寄せに付け、すこし眉を顰めながら入り口から顔を出す。


「リディア様、お車の用意が出来ました。」


「ありがとう。」

リディアは、振り返ってケインに微笑むと、ゆっくりとエントランスへ向かう。


大きな入り口のドアを押し開いて、リディアが足を踏み出した途端、強い南風が吹き込み、その顔を弄った。


「ぁ・・・」

リディアはそのか細い足を2,3歩ふらつかせると、手の甲で顔を覆いながら俯く。

長い黒髪が煽られ強く靡いている・・・


「おい!」

後ろからユウリが目を細めて呼び止める。


「ぇ?」

リディアは顔を覆ったまま、後ろを振り返った。


「お前・・・気をつけろよ。」


リディアは一瞬小首を傾げると

「気をつけるって・・・それは、あなたの方でしょう?」

そう言いながらくるりと向き直り、ふと思い出したようにユウリに近付いて行く。


そして真っ直ぐにその目を見上げ爽やかに微笑むと、凛とした声で言った。


「ごきげんよう。」


ユウリは、ふっと微かに笑って一瞬つま先に視線を逸らすと、軽く咳払いをしてからその青い瞳を上げた。


「じゃあな。」