Side 香澄

名前を呼ばれて、一臣君を見上げれば空気って言うのかな?

雰囲気って言うのかな?

それがガラリと変わって、あたしはその雰囲気にあっと言う間に飲み込まれてしまう。

近付く一臣君の顔。

それに驚きつつも、あたしは動く事が出来ない。

なのに、心は当たり前のようにただ静かに一臣君を待つ。

あたしと一臣君の唇がだんだん触れ合うぐらいに近くなって、吐息が重なり合う。

その事に緊張して息を止めてしまうと、


「香澄」


また名前を呼ばれて、あたしはそっと瞳を閉じようとした。


「俺にもそれ頂戴」

「……へ?」


触れ合うギリギリの所まで近付いていた一臣君がスッと離れて行く気配。

そして、手からスルリと奪われたジュース。


「………っ」


え?え?

我に返ったあたしはこれでもかと言うぐらいに赤くなる。

今、あたし…


(キスされかけた…?)


や、でも、されてないし、当たってない…

え?あれ?

じゃあ、今のあの距離は何?!

窺うように一臣君を見上げると、一臣君の手が伸びて来て視界を隠される。


「一臣君…?」

「ジュース、美味いな」

「???」


一臣君の声がどこか照れてるような、焦ってるような感じに聞こえた。