相手が一臣君だからこそ言えないのに。
「…だから、何でもないよ?」
悲しい事に気付いてくれて、二人しかいないからって気を使ってくれて、凄く嬉しい。
けど言えないものは言えない。
ー…それとも、ここで気持ちを言っちゃった方がいいのかな?
そうしたらちょっとぐらい、あたしの事を恋愛対象として見てくれる?
「…本当に?……って悪い。俺、しつこいよな」
「う、ううん?」
しつこくなんて無いよ?
「けど、ごめんな?気になってしょうがないんだよ。こんな俺、嫌なんだけど」
「……え?」
気になる?何で?
「…俺、香澄の事…」
一臣君が何かを言おうとしたと同時に一番始めの花火が上がり、ドーン!と大きな音が鳴った。
その音に驚いてしまったあたしは一臣君の言葉を聞き逃してしまう。
「あ、ごめん、今…」
何て言ったの?
「………。香澄が」
「あたしが?」
「………」
押し黙ってしまった一臣君に首を傾げると、
「え、一臣…君?どうしたの…?」
一臣君が途端に赤くなった。
そして手で顔を隠しながら、あたしから顔を背ける。
「…悪い。何でもない」
「でも」
「何でもないから、香澄は花火見てろよ」
花火どころじゃないのに、一臣君があたしの後ろに回り、あたしの顔を無理矢理夜空に向ける。
「は、花火綺麗だなー」
「???」
どこか棒読みにも聞こえた声に不思議に思っていると、
「ヤバい。そう言う事か」
背後から一臣君の小さな声が聞こえた。

