帰って来た、と言われて分かった。
雪が言ってたのは一臣君の事みたい。
「一臣君の方が先約だよ?」
「一臣…?」
拗ねていた雪がピクリと反応する。
「勉強教えてもらう約束してたの」
「女じゃなかったっけ?」
「うん。花音ちゃんと一臣君と」
後、翔君。
そう言おうとしたら、雪が思い切り眉をしかめて、お兄ちゃんの手を振り払って、歩き出した。
「雪…?」
「面白くない。帰る」
「え?うん。バイバイ」
バイバイ、と手を振ると、『もの凄く不満』って言うような空気を出して雪は帰って行った。
「雪、なんであんなに…」
不満そうだったのかなぁ?
首を傾げると、お兄ちゃんが呆れたように溜め息を吐いた。
「雪も言えばいいのに。今のままじゃ絶対気付かないぞ。香澄は」
「気付かないって何に?」
お兄ちゃんに聞いてみると、お兄ちゃんはチラリとあたしを見て『なんでも無い』と首を振った。
「???」
全然分かんない。
「お兄ちゃ「そう言えば、一臣ってあの一臣?」
「……へ?」
話が急に変わったから、あたしはまた首を傾げてしまう。
「うちの一年。弓道部の」
「知ってるの?」
「名前と顔だけ」
「ふーん?」
「…こないだデートした相手?」
「…………!!」
「彼氏か」
「ち、違っ」
たんたんと聞かれて焦ってしまう。
それに、
(そんな嬉しい関係じゃないよ…)