キョウアイ―狂愛―





シアンにも傷を負わせてやったから、追い付いてはいないだろう。





(彼女さえ、無事でいるのなら……もう、いい)






三十年前、クレアが自分を捨てて逃げた時は、許せなかった。


自分のそば以外でクレアが笑い、生活をする事などあり得ないと考えていた。




しかし、彼女は三十年も姿をくらまし、戻ってきた後も一貫して自分を拒んだ。


受け入れたのは騙す為。

微笑みを向ける彼女は幻。

血の繋がりや双子の絆など自分達の間では無意味。




――クレアはこの世で俺を一番に憎んでいる





二人で生きたかった。



しかし、望んだ愛はどうしたって手に入らない。




もう、いい……。




三十年も経って、この状況になって、ようやく諦める気になった。






しかし……


諦め、閉じた瞼の奥に浮かび上がるのは、クレアの残像ばかりだった。



自分の後について回る幼いクレア。

沈む夕日を好きだと言ったクレア。




数々の思い出が走馬灯のように、頭をよぎる。





(クレア、クレア、クレア……)





愛する者の名を呼び続けるサイファ。


その耳に足音が聞こえた。



靴底に小石を踏みしめ、一歩ずつ近づいてくる。