サイファはすぐに倒れたクレアを自分の寝室に運び入れた。
「駄目じゃないか……。最近の君は生血さえ満足にとれていない」
怒っているわけでない。
心配そうな黒の瞳がクレアを見下ろしていた。
食事も生血もわざと取らない訳ではない。
喉を通らないのだ。
口に入れてもすぐに吐き出してしまう。
サイファは解っていた。
自分の行いがクレアの理念に反している事を。
それなのに自分の側にいるクレアがいかに気持ちに折り合いをつけるのが難しいか。
(いっそ俺を恨んでいた方が気分が楽だろうに……)
クレアが自分に共感し好意を抱く所があるとすれば、それは血の繋がりの一点に限る。
何故側にいるのか?
―――兄弟だから。
あれ程に自分達を苦しめた血が、今はクレアに好かれる唯一の根拠。
皮肉なものだ。
それでも、クレアが傍にいて、笑顔を向ける相手はこの自分であるということが嬉しくてたまらなかった。
サイファの綺麗な指が優しくクレアの口をこじ開ける。
「ほらご覧。歯が伸びてきている」
クレアの口に並ぶ歯は、そのどれもが異様に伸びていた。
それはクレアも感じていて、最近では何度か口の中を切った事もある。
特に犬歯が長く伸びていた。


