「クレア、疲れていなければだけど……」
口を固く結び、俯くクレアに、サイファが遠慮がちに話しかけてきた。
「お前を連れて行きたい所があるんだ。
屋敷に戻ったら二人で行かないか?」
(……二人きり)
クレアは、チャンスかも知れない……と、唾を飲み込み頷いた。
屋敷に戻るとサイファは次々と話しかけてくる召使いを適当にあしらい、馬車を降りた側に馬を用意させた。
まず自分が乗ってから
「おいで」
クレアを馬に引き上げる。
クレアはサイファの腕の中にすっぽり納まった。
その時、クレアは背中の存在に、急に、ジキルを思い出した。
――激しい雨の日の逃亡劇。
二人で馬に乗り遠く逃げようと足掻いた。
違うのはジキルから感じる体温はもっと包み込むように温かかったこと。
「しっかり僕に捕まっていて?」
耳元に囁く声は現実を写した。
(この冷酷な悪魔を倒せるのはあたしだけなんだ)
あたしがやらなければ、いつまでたっても、シアンもジキルも浮かばれないんだ。
何度も頭の中で繰り返し念じた。


