猫耳姫とメガネ王子

だから私は、『まだ帰りたくない』という言葉を、素直に口に出すことができずにいたんだ。


後ろ髪を引かれる思いのまま、私は家の玄関へ向かう。


もう一度振り向いて『ばいばい』と言うと、壱と仲良くしていた時間がすべて幻になってしまうようで、振り返る事もできない。


化粧をして鈴と2人でいるときは、あんなに積極的だったのに、こういうときに限って勇気が出ない。


それが《恋》をしている証拠なんだって事を、私はまだ知らない。