隣の先輩

 彼はその場でボタンを押すと、私に先に入るように促していた。


先に中に入り、エレベーターのボタンを押す。彼は私に頭を下げると中に入る。


私は自分のおりる五階のボタンを押す。彼に何階でおりるか問いかけようとしたとき、彼が小さな声をあげる。


「俺も同じ階だ」


 肩をすくめ、少し照れくさそうに言った彼の言葉が嬉しくなり、笑顔をこぼしていた。


たまたま町中で会った人が同じマンションだというだけでもすごい偶然だと思うのに、その上、同じフロアというのがすごい。五階は五部屋ある。


その中でどの家なのだろう。引っ越したばかりで、私は住人の顔をほとんど知らなかった。



母親は隣近所に挨拶をしにいっていたので、私よりは知っているだろうけど。



 エレベーターが大きく揺れ、止まる。私はボタンを押し、彼に先に出てもらうことにした。彼が外からボタンを押してくれ、私は外に出る。