隣の先輩


 いつも私を幸せな気持ちにしてくれたその手をつかむ。


「夏休み、どこに行くか決めた?」


「決められなくて」


 そんな私の言葉に先輩は笑う。


「ゆっくり考えればいいさ」



 先輩は私を引っ張って歩き出す。


「まずは家に帰ってからかな」


 遊びに行くところは一度に出てこないけど、それでも真っ先に思い浮かぶことがある。


「花火大会に行きたい」


 昨年一緒に見られなかった花火。


 自分の気持ちを自覚した日。


 昨年は予備日に開催されたので、日付は大幅にずれているけど、それでも特別な日だった。


「覚えているよ。まずは一つか」


 先輩はそう言うと、目を細める。


 あのとき、宮脇先輩と一緒のところを見なかったら、私は自分の気持ちを実感できていたのか、その答えは分からない。


「花火大会の日、浴衣着て来るんだよな」


 先輩はそう言うと、少し嬉しそうな顔をする。


「今年も新しいのを買ったからそれで行くつもり」

「去年のは?」


「どうしても見たいなら着るけど?」


 ちょっとからかうようにそう言ってみせた。


「両方見てみたい」


 自分からからかったのに、その言葉に動揺したのは誰でもない私。


 先輩は私の顔を見て、くすっと笑っていた。



 その先輩の態度に顔が赤くなるのが分かった。


「少し遠いけど、あの部屋から見た花火大会も見に行こうか」


 私はうなずいていた。


 こうやって私と先輩のこれから先の思い出は少しずつ埋まっていくんだと思う。


 その思い出は先輩がいない寂しさを拭ってくれる。


 私はぎゅっと先輩の手を握り締めた。


 私は先輩の顔が赤くなっているのに気付いて、笑顔になる。


 これから先、どんなときでもあなたの隣で笑っていたい。


 私は稜の手のぬくもりを感じながら、そう強く思っていた。




                   終