隣の先輩

「先輩」


 一定のリズムで歩いていた私の歩調は心臓の音と同じように一気に速くなっていた。


 そして、その人の影が私にかかるくらいの距離まで行くと足を止める。


 彼は昨年度何度も、見せてくれた笑顔をまた私に見せてくれていた。


 その笑顔に目元が熱くなるのが分かった。


 私は泣くのを堪えるだけで、何も言えないでいた。


 彼の手が私の頬に伸びてくる。そして頬に触れるように抓る。


「先輩じゃないって」


「つい」


 私はそう言うと、笑顔を浮かべた。


 少しだけ、視界の中の先輩の姿が霞んで見えた。


 私の頬に触れていた先輩の指先が下睫毛に触れる。


「泣いていた?」


 私はその優しい声を否定するために何度も首を横に振る。


「稜がいると思わなかったからびっくりして」


 嬉しかったから。


 それ以上言葉を続けると、もっと視界が霞むのが分かったから、唇を軽く噛む。


「急に悪かったな。明後日帰ってくるつもりだったんだけど、会いたくなって佳織と一緒に帰ってきた」


 先輩の手が私の頭を撫でる。