「え? どうしてですか?」


 思いもしなかったことを言われて、戸惑っていた。


「成績悪い娘を連れまわすと、怖そうだし」


 今はそんなに成績は悪くはないけど、先輩の気持ちも分からなくはない。一応うなずいておく。
  

 近所で家族を知っているということはそういうところでデメリットもあるのかもしれない。


 私が先輩の立場ならやっぱりそう思うと思うから。


「頑張ります」


 それくらいしか言えなかった。


 先輩は私の髪の毛をくしゃくしゃにすると笑っていた。


 私たちはその辺りを少し散歩すると、駅に向かうことにした。


 駅のホームには人が溢れている。


 時折大きめの旅行バッグを持った人がいるが、ほとんどが普通の日常生活を送るために、この乗り物を利用している。


 その人たちは明日でも、明後日でも、好きな人と会えるんだと思うと羨ましい。


 もうすぐ和葉さんとの待ち合わせの時間だった。


「夏休みには戻ってくるし、そのときには一緒に遊ぼう」


 先輩はそう言うと、私の頭を撫でてくれた。


 物寂しい気はするけど、やっぱり先輩がいなくなってしまうという実感がいまいちなかったのかそこまで涙が溢れてくるような気持ちにはならなかった。


 私は先輩の言葉にうなずく。


 先輩は何かを思い出したような顔をしていた。


「携帯貸して」