「そうですね」


 私はそう言うと、星の瞬く夜空を見上げていた。


 今なら大丈夫。笑える。


 そう思うと、ベランダに体を乗り出す。そこにはいつもと変わらない先輩の姿があった。



 先輩は私が顔を覗かせたことに驚いたのか、焦ったような顔をしている。


 暗がりで先輩の肌の色までは分からないけど、恥ずかしい思いで、そんなことを言ってくれたんだと分かった。


 私は先輩を見て、笑顔を浮べる。


「約束」


 そして、小指以外の指は拳にし、先輩の部屋のほうへ手を差し出した。先輩も私の気持ちを分かってくれたんだろう。


 私の指より、一関節ほど長い指をそっと絡ませてくれた。先輩の体温を感じていた。


 敷居があるので少し窮屈だけど、約束の証。


「約束するよ」


 先輩は何かを考えているような顔をする。


「他にあれば何でも言って。全部は無理かもしれないけど、できるだけ約束は守るから」


 私にとって最大の望みは最初に先輩が言ってくれたこと。


 他に願いごとはあるわけないと思っていたのに、先輩にしてほしいことを考えると、いろいろ思いつく。


 意外と私は欲張りなのかもしれない。


「毎日とは言わないけど、暇なときはメールでも電話でもしてほしいです」