隣の先輩

「別の人って誰?」

「言わない」


「どうして?」

「勝手に思い込んで、嫌な気持ちになっていたんだから言えるわけないって」


 確かにそうなのかもしれない。


 私もそうだったから。


 そう言った先輩は私の頭と背中をそれぞれ別の手でつかみ、私を抱き寄せていた。先輩の存在を近くで感じていた。


「ずっとこうしたかった」


 先輩……。


 何度も先輩に抱きしめられた。


 一度目は愛理の家に行ったとき。二度目はあの探し物をした雪の日。そして、今が三度目。


 どれも先輩の存在や優しさを感じられた出来事だったけど、今が先輩の存在を一番感じられた気がした。


 思わず涙が出てきそうになって、唇を軽く噛む。


 でも、私のそんな涙をとめる方法は手遅れだったんだろう。目に涙が溢れてくるのが自分でも分かった。


 人は幸せなときにも泣けるんだって、そのとき初めて知った。


「言ってくれればよかったのに」


 こんなに悩むことはなかったのかもしれない。


「届かないって思っていたから、学校の先輩でよかったんだ。二度と会わないわけでもなかったし、気持ちを伝えて気まずくなりたくなかった」


 私と同じ気持ちを先輩も持っていたんだ。


「それに、それはお互い様だと思うけどね」