隣の先輩

 今まで先輩からつかまれたことはあったけど、自分からつかんだことは一度だけ。


 一緒に遊びに行った日に電車から降り損ねそうにになったとき以来だった。


 後悔はする。


 多分、すごく。


 先輩は驚いたように私を見ていた。


 でも、すごく怖かった。


「まずはどこかの店に入ってから、話を聞くよ」


 それが分かっていて、言わなきゃと思っても、喉の奥に何かつっかえたように言葉が出てこなかった。


 どうしてこんなに臆病なんだろう。


 私はずっとそうだったんだ。


 臆病で、一人で何でも決めてしまっていた。


 それで何度も先輩を困らせた。


 でも、先輩は私に優しかった。


「安岡?」


 突然名前を呼ばれて、びくっとする。


 先輩が悲しそうな目で私を見ていた。


「帰ろうか」


 私が何も言わなかったからなのか、先輩はそう言い出していた。


 そのとき、頬に冷たいものが触れる。