隣の先輩


 何度か抱きしめられたことのある、力強い腕が私の体に回されていた。


 私より体温が高くて熱を帯びた腕。


 西原先輩が私を抱きしめていたんだと少し遅れて気づく。


「裕樹から家を飛び出したって聞いて。電話もつながらないし。本当に、心配かけさせるなよ」


 心配と聞いて、目の奥が熱を持ったみたいに熱かった。


 分かっている。その言葉に特別な意味がないことくらい。


 隣に住んでいるから、友達だから人並みに心配してくれているだけだって。


 それでも、嬉しかった。


「稜」


 宮脇先輩の声が聞こえた。そのことで、我に返る。私が身動きする前に、私の体に回されていた、先輩の力が緩む。


「悪い」

「真由ちゃんを早めにつれて帰ってあげたら? 家の人が心配しているんでしょう?」

「そうだな。お前も早く帰らないと、悠真さんが心配しているよ」


 宮脇先輩はその言葉を聞いて笑っていた。



「真由ちゃん」


 宮脇先輩の目が私を捉える。


 でも、その目はお店から出たときに見た儚げなものじゃなかった。


 優しくて力強い瞳だった。


「本当にありがとう」


 よかった。


 私はそう心から思う。