隣の先輩

 その顔を見ていると、先輩の話を聞いてしまったんだと分かる。


「ケーキ買ってきたよ」


 そう言った宮脇先輩の声はわずかに震えていた。


 先輩の言葉には悪意がなかった。それは私が告白を聞いたあの日と同じ。


 でも、その言葉は先輩を好きな人には心を傷つける言葉でしかない。


 先輩が悪いわけではないと分かっているけど、でもそう言われるのはすごく辛いからだ。


 私はただの隣人だからいい。


 でも、昔付き合っていて、今でも好きな人からそう言われてしまった宮脇先輩の気持ちは私の比ではないような気がした。


 願わくはさっきの会話が間違いであってほしい。


 誰を好きでも先輩の自由なのは分かっていた。それでもそう思っていた。


「先に帰りましょうか」


 そのときは先輩の話がただショックで、一刻も早く、宮脇先輩をこの場所から連れ出したかったんだ。


 私はお店の人にケーキを袋に入れ替えてもらった。


 そして、先輩たちに「先に帰っている」と言い残すと、店を出た。


 先輩達は驚いたみたいだったが、用事があるというと、それ以上は追求してこなかった。


 私は宮脇先輩の手を引き、お店の外に出た。


 冷たい風が体の熱を奪い去るように、叩きつける。


 太陽の光はすっかり消え失せ、お店からもれる光と街灯が町を照らしていた。