隣の先輩

 そのときの先輩は別に咲のことを気にした様子もなかった。


 好きな相手だったらやっぱり気にするよね。普通は。



 私たちは一言も話をせずに淡々と歩き続けていた。


 先輩が話をしないのに、話しかけることは気が引けたからだ。


 それに、目も合わせようとしてくれないから。


 学校の前を通りかかったとき、先輩の足がとまった。


 私は先輩を見る。後ろから覗き見ることのできる先輩の顔がどこか赤くなっている気がした。


「昨日の夜はごめん。あんなことをするつもりなくて」


 そのとき、昨日抱きしめられたことを思い出していた。


 嫌な記憶ではなかったけど、改めて言われるとかなり恥ずかしい。


「本当に悪かったと思っているから」


 だから、私と目を合わせようとしなかったんだ。


「気にしないでください。でも、私もちょっと落ち込むことがあったけど、先輩のおかげで元気になりましたから」